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漢方の話--- 菊の節句と漢方

  鉄砲洲診療所所長
  沖山 明彦

 古代中国では自然界は「陰」と「陽」の相対するものが、つりあいをとって調和していると考えました。例えば、天が陰で地が陽、日陰が陰で日向が陽、女性が陰で男性が陽、冬が陰で夏が陽、右が陰で左が陽、上が陰で下が陽といった具合です

 この「陰陽論」はたとえば数字にも使われます。偶数は陰、奇数が陽です。旧暦の9月9日は陽の最大数9が月と日で重なるので「重陽」あるいは「重九」と呼ばれるのだそうです。五節句のひとつで「菊の節句」ともいいます。そのいわれに次の話があります。漢の時代、汝南(じょなん)に桓景(かんけい)という人が、方士(仙人になるための修行者)について、道教を学んでいました。ある日、この方士が桓景に「9月9日、汝南で大災難が起きる。急いで家に帰り家の人全ての腕に茱萸(しゅゆ)を入れた袋を結びつけ、皆で山の上に行き菊の花を入れた酒を飲めば、この災難を逃れることができる」と言いました。その通りに過ごして、山を下りると家畜が全部死に絶えていました。鶏、犬、牛、羊たちが身代わりになったのでした。以後、この重陽の日に菊の花を浸した酒を飲み難をさけるようになったのだそうです。「菊の節句」の呼び名が有名ですが、「茱萸の節句」とも言われます。

 菊は中国原産で菊花は2000年以上前から薬用とされてきました。シマカンギク(野菊)とチョウセンノギクの交配改良したものが栽培の菊です。菊全体を薬用とすることもありますが、主に菊花を生薬として使います。しかし、日本では野菊(シマカンギク)が菊花として用いられています。漢方では、菊花には、解表(げひょう:発汗することで肌表の邪を除く)・平肝(へいかん:「肝」のはたらきである精神活動や筋緊張を安定させる)・明目(めいもく:目を明らかにし、よく見えるようにする)・清熱解毒(せいねつげどく)の効能があり、上気道炎や肺炎、結膜炎などの炎症や皮膚化膿症などに用います。また、視力低下、目のかすみ、眼痛、羞明感などに使い視力を改善します。高血圧症やいらいらしやすい人で頭重、頭痛、頭のふらつきなどがある場合の漢方に「釣藤散(ちょうとうさん)」があります。「釣藤鈎(ちょうとうこう)」と「菊花(きくか)」のほかに9種の生薬で構成されています。「釣藤鈎」も鎮痛、鎮静作用があり、この漢方は朝起き抜きや休息時の頭痛、頭重が使用する目標になります。野菊の花や葉からごま油で抽出した精油成分を「菊油」といい、その殺菌力から切り傷、火傷に利用されました。さらにそれを蒸留したものを島津藩では「秘薬薩摩の菊油」と称し、下痢、腹痛の薬に使いました。料理菊(食用菊)では八戸の「阿房宮(あぼうきゅう)」が有名です。香りが強く、食感がよく、酢のものやてんぷらにするほか、蒸して乾燥したものを「干し菊」といい保存して料理に使います。菊花には抗菌作用があり、刺身のつまも飾りでないことはよく知られています。「菊花茶」は摘み取った菊花を自然乾燥させたもので、緑茶、ウーロン茶、紅茶に浮かべて楽しみます。明目作用のほか、頭痛を治し、老化を遅らせるという効能があるそうです。

 「菊花酒」は中国では、菊の花・茎・葉を黍(きび)、米と混ぜて醸造した酒とされていますが、お手軽にはホワイトリカーに、「菊花茶」に使われる菊花茶を、氷砂糖を加え漬け込み3週間ほどで菊花を取り出し冷暗所保存します。「菊花茶」をお酒に入れても結構です。