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病気の話…認知症について(1)認知症の対応で最も大切な視点

東京保健生協精神科部長・大泉生協病院精神科 
中島 昭
 

「何かができなくなったとばかり考えないで、これは今もできるんだなと思うようになりました。」診察の終わり際、Aさんの妻は笑顔でこう話しました。二人暮らしのAさん夫妻がもの忘れ外来を受診したのは、Aさんが八十才の時、ご夫婦とは八年以上のおつきあいです。

 「電気器具やパソコンの使い方がダメに」「料理の味付けが単純に」「曜日や日時が適当になった」「最近、迷子になることが」「服を一人で着られなくなった」「トイレの失敗が増えた」というように、本人の「ここ」が今までと違ってできなくなったと家族は必ず訴えます。認知症の変化への途惑い、その進行を認めたくないという気持ち、以前の本人に戻って欲しいという願望、複雑な心理の中にいる家族のその心情はよくわかります。

  しかし、脳の変性疾患であるアルツハイマー型認知症(AD)、レビー小体型認知症(DLB)、前頭側頭型認知症(FTD)、そして脳血管障害である脳血管性認知症(VD)、これら4大認知症は、加齢という因子に強く影響を受けており慢性進行性の経過を全ての人がたどります。発症年齢や進行の速度は個人差が大きいのですが、身近に介護をする家族はこの自然の摂理を否応なしに実感していくことになります。 その中で、最も大切な視点と対応は、Aさんの妻が語った「今もできる」本人の力をしっかり見極めて、その力を認め引き出すことです。「できなくなった」ことは、減退した本人の力をどのようにしたら補えるかと考え、ケアの工夫や適切な環境調節につなげていくことです。これらが本人と家族にとって前向きな道すじとなります。

  認知症になった80代、Aさんの妻は、Aさんが時間をかければなんとかやれることには、手を出したくなるのを抑えできるだけ見守ることにしました。「この鬼婆は…」とAさんは私に言いますが、妻は「何を言われようと、子どもに戻っていくあなたを置いて私はボケていられませんから。本当の子どもでないから、しゃくにさわるんですけど」と、笑顔の中で凛とした言葉を返してきました。

  第2回では、「認知症の予防で大切なこと」を説明していきます。