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病気の話…認知症について(5)せん妄の原因と対応(2)

東京保健生協精神科部長・大泉生協病院精神科 
中島 昭
 

 せん妄の原因は、臨床上、以下の三つに大別して検討される。

 (1)準備因子 せん妄が発現しやすい患者サイドの身体基礎背景。高齢、認知症、器質性脳障害、肝疾患、腎疾患、肺疾患、心疾患、パーキンソン病など。

 高齢者が全てせん妄となるわけでは勿論ない。70代、80代でも、脳も気持ちも50代の私より若い人はたくさん外来にいる。しかし、個人差・体質差があるが、加齢自体が脳機能脆弱性を一般的には進行させており、せん妄の基礎背景となる。
 認知症は、軽度から高度いずれの経過でも、また、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、アルコール性認知症など全ての認知症が準備因子となりうる。器質性脳障害とは、脳梗塞既往、頭部外傷後などである。
 肝臓・腎臓の基礎疾患がある場合は、薬物代謝と排出機能の低下のために、例えば、風邪薬、サプリメント、内服治療薬、少量のアルコール摂取など通常なら一日で体内から分解排出されるはずの物質が、過剰蓄積の原因となりうる。
 肺と心疾患では、その基礎疾患の増悪による血中酸素濃度の不安定さが、脳機能低下の準備環境を体内に作っている場合がある。

 (2)促進因子  せん妄の発症を促進する間接原因。痒み、痛みや発熱などの身体的ストレス。家庭内や人間関係での悩み、或いは喪失・死別体験の心理的ストレス。聴覚と視覚の低下といった身体性、あるいは環境性の感覚遮断。転居、施設利用、入院など不慣れな物理的環境変化。これらのストレス因により増強した形での睡眠障害。

 せん妄では、入眠困難、途中覚醒、早朝覚醒、熟睡障害、昼夜逆転など睡眠障害は必発であり、最も注意すべき徴候である。

 (3)直接因子  せん妄発症に直接影響する原因。脳機能障害(意識混濁、意識障害)を引き起こす全ての原因であり、極めて多数の疾患、手術、薬物がある。個別の患者ごとにその原因は千差万別。

 肝・腎障害の増悪(肝・腎不全化)、心不全増悪や肺炎発症といった基礎疾患増悪。糖尿病では高血糖化や低血糖化など血糖値の大きな変動。一過性脳虚血発作、脳梗塞発症や再発といった脳卒中の徴候として現れることもある。

 高齢者で身近に起こる事としては、脱水や栄養摂取不足。特に痩せ体型(BMI≦18)では、体内環境の変動余力が小さいため、軽度の食思不振からせん妄につながる事がある。

 加齢や認知症の進行により、新たに、てんかん発作は誘発されやすくなっているが、てんかんがせん妄の直接原因となる場合も少なくない。

 そして、アルコール、サプリメント、内科治療薬、精神科治療薬といった物質(ドラッグ)全般が、せん妄の誘因となりうる。薬物は、疾患に極めて大きな効果があるから使用されるのであるが、患者の身体状態という個別性の下では、せん妄を含む副作用の可能性も一定生じている。薬物治療は、その効果と副作用の総合評価が、継続的に、医療者と患者・家族双方において常になされなければならない。

 以上の原因考察の下に、せん妄の治療と対応を次回は説明します。