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歯の話---上流をめざす

  氷川下セツルメント歯科・歯科医師
  安 梨淑

 病気が進行してから治療するのでは失うものが大きすぎる。なんとか、健康を損なう前に対処したい。誰もがそう考える。

 病気の進行を川の流れに例えると、健康を損なう前とは川の上流のことだ。昨今医療は「治療」から「早期発見」「発症予防」へと上流にシフトしてきているという。

 近年、口腔内の細菌が人間の体に害を及ぼすという研究結果がつぎつぎと発表されている。例えば、「1日2回以上歯を磨く人は、1日1回磨く人より癌罹患率が3割低い」2009年に日本癌学会で発表された内容だ。本当?だがメカニズムとしては口腔内細菌が多くの食べ物に含まれている硝酸を還元し発癌物質であるニトロソアミンを産出するためだと考えられ、理にかなっているという。(注:歯を磨かないと舌苔部分にたくさんでてくるヴェイロネッラ属、アクチノマイセス属菌が犯人)

 この他にも口腔の細菌は@インフルエンザウィルスと一緒になって細菌性肺炎を起こす(インフルエンザウィルス単独では死亡には至らないが口腔常在菌が加勢し重篤な肺炎になる)、A誤嚥性肺炎をおこす(高齢者の肺炎で口腔内の弱毒菌が抵抗力の弱った高齢者の肺に起こす)B血中にLPS(リボポリサッカライド)を送り込み血管内皮機能障害を起こす(注:血管内皮とは血管の内表面を構成している扁平な細胞の層で障害を受けるとアテローム型動脈硬化症を引き起こす)C歯周ポケットがピロリ菌の増殖場になり胃や腸管を除菌しても完全除菌できないなどが解明されてきている。

 上流で健康を守るとは、健康を害する危険因子をあらかじめ取り除くということだが、口腔内細菌はそういう意味で喫煙を上回る危険因子と言われるようになってきた。それならば上流で我々はこの細菌をどうしたらいいのだろう。口腔内の細菌叢を善玉菌が優位になるようにリセットする。これが答えだという。口腔内は無菌でない。腸内同様口腔内にも善玉菌が必要だ。なぜなら善玉菌が優位な口腔内では悪玉菌は生育しにくいからだ。バイオフィルムを作って口腔内に住み着いている悪玉菌を定期的にとりのぞき悪玉菌の住みにくい口腔環境を作り維持していくのだ。これは大人の歯周病の治療と予防のために日頃我々が行っていることと全く同じである。とすれば「健口」は「健康」の上流に位置していると言えるのかもしれない。そろそろ上流をめざそう。