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病気の話…認知症について(10)認知症とせん妄のケースカンファレンス(2)

  東京保健生協精神科部長・大泉生協病院精神科 
  中島 昭  

ケース(1) Aさん(80代前半、女性)のその後の経過。
中心となる病態は何か 
  2人の前医が、「高血圧症」、「うつ病」、「アルツハイマー型認知症」と診断し、それに対応して降圧薬、抗うつ薬・抗不安薬、抗認知症薬が処方されていた。8月まで買い物をしていたAさんは9月になると活気がなくなり人が変わったようになっていた。この変化の主要原因は何だったのか?
 急激な体重低下(4か月で36kgから29kg)と低アルブミン血症(3・0)の所見から、低栄養状態が病態の中心にあると判断した。
低栄養状態の原因 
 それではAさんは何故、食思不振、低体重化、低栄養となったのだろうか?
 第一に、50代以降「うつ」のため向精神薬が必要であった時期もあるが、現在は「うつ病」ではなく、向精神薬は漫然投与となっていた事。第二に、体重低下により高血圧症に今は無く(血圧98/62)、降圧薬は相対的過量となっている事。第三に、低体重化の過程で、8月にアルツハイマー型認知症として抗認知症薬が処方されたが、この薬は食思不振・胃腸症状を高頻度で増悪させる場合があり、効果と副作用の再評価が不十分な不適切処方となっていた事。
 これら三つが重なり低栄養が増悪。低栄養・低体重化状態は、せん妄を発症させる直接因子となる。活気なく人柄が変わり、認知症のように見えたのは、実は混合型せん妄の発症であった。
治療と対応
 (イ)抗認知症薬アリセプト、抗うつ薬トフラニール、抗不安薬ソラナックスは中止。スルピリド(抗うつ、胃腸保護薬)150mgは25mgへ減量。降圧薬の減量。
 (ロ)C保健師、Dケアマネ、G内科医院と情報共有。食事低下時のエンシュア(総合栄養剤)の補助利用、電解質維持と脱水予防のため適宜の補液治療の協力依頼、ヘルパー支援による日常生活・食事摂取の見守り強化の実施。
その後の経過
 7日後再受診。
 Dケアマネ「向精神薬と抗認知症薬はその日に中止。F、Gの内科の先生に了解してもらい身体フォローをしていただいた。」「2日後に、食事量が増加。表情が穏やかでしっかりし、話も通じ怒りっぽく無くなった。手引歩行が自立歩行に、訪問入浴も受け入れてくれた。」
 本人「体調?私は昔から元気ですよ。ここ数か月のことは、不思議と覚えていない、身体がだるかったかな。」「入浴が楽しみ、若い男の子が親切でいい子よ。」
最終診断 
 (1)低栄養状態 A薬剤性せん妄(混合型せん妄)。(2)認知機能:加齢内〜MCI(軽度認知障害)。2週間後には、心身機能はほぼ以前のAさんの状態に回復。在宅介護体制の強化を受け入れている。
問題点の検討
 認知症とせん妄の方を介護している家族は、食思不振、認知機能と行動の動揺について、速やかに回復する場合や難渋してしまう場合を経験していることだろう。
 高齢独居者をケースワークする際には医療倫理的問題が生じやすい。判断力低下がある高齢者が医療や介護を拒否している場合に、その権利擁護を誰がどのように判断し実行するのか、介護契約や処方内容の変更の責任を誰が担うのかといった内容に踏み込まなければならない。また、入院先は何故見つからなかったのか。地域の医療資源状況の課題も見えてくる。
 次回はこのケースの問題点、課題を詳しく説明したいと思います。