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病気の話…認知症について(11)
認知症とせん妄のケースカンファレンス(3)

  東京保健生協精神科部長・大泉生協病院精神科 
  中島 昭  

(1)認知機能の低下がある人を支える上での倫理的な問題 
本人が医療や介護の関わりを拒否している場合にどう考えるか 
 一人暮らしで親しい身内のいないAさん(80代前半、女性)は、最初、友人の助言やケアマネの在宅介護支援のための提案を強く拒否していました。地域包括支援センターの保健師の家庭訪問も最初は「自分で何でもしているから迷惑、帰って」と怒っていました。

 このように本人がケースワーク(困難な状況にある人に個別に具体的な支援を提案すること)を拒否している場合、皆さんはどう考えるでしょうか。本人の意志表示が、「よけいなことをしないで」「家に来ないで」「病院なんかに行きたくない」ということですから、見守っていればよいのでしょうか。

 世の中には悪い人がいて、一人暮らしの高齢者の所に親切ごかしで近づいて、次々販売、振り込め詐欺などで財産を狙っているという現実があります。それゆえ、他人の介入を警戒している方もいます。他方、一人暮らしの方の孤独死が増加しているという現実もあります。

ここでは大きく二つの医療・介護上の倫理的問題を検討しましょう。
「権利擁護」と「ネグレクト」
 
 一つは、この状況での「本人の権利擁護とは何か」ということです。心身状態の猶予があれば、ケアマネと保健師は、時間をかけて信頼関係を作ることを当面の目標としても良いでしょう。本人の気持ちがほぐれて自分から医療や介護を活用していくように助言し待つという選択肢もあります。しかし、Aさんは、食事も満足にとれず脱力や体重低下が目立ち、おかしな言動が認められ、身体が衰弱してきていることは明らかな状況でした。実際、低栄養とせん妄の状態にありました。

 このケースでは、本当の「権利擁護」は、「本人の見かけ上の拒否」という意思表示の上にあるのではなく、Aさんの身体と精神の回復を実行するという「他者の責任ある判断」の上にあります。

 遠くから見守っていたのでは、悪意はありませんが、「ネグレクト(放棄・放任)」と同じことになります。本人に認知機能、判断力の低下があり、自分の「権利擁護(その人らしい生活と人生を送る権利を守ること)」を果たせない状態を「セルフネグレクト」と言いますが、Aさんはせん妄による判断力低下でその危機の状態にあったのです。

 友人、ケアマネ、保健師は、本人の「拒否」という意思表示に悩んだでしょうが、精神症状の改善と身体衰弱状態の回復のために医療につなげる事、その後の生活を支える在宅支援体制を作る事、このことが本人の権利擁護と考えました。そして、責任ある行動を決断したと考えます。