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漢方の話… みかん

  鉄砲洲診療所所長
  沖山 明彦


 みかん 「…この皮ひとり飛び上がりて、西に行き東に飛び…国中を飛行」

 11月はみかんが旬。「民謡歳時記」に、和歌山県有田郡の「蜜柑取唄」のひとつが紹介されています。有名な、「沖の暗いに 白帆が見える あれは紀の国 みかん船」です。みかん船というと、紀伊国屋文左衛門ですが、彼はみかんではなくて、相次ぐ江戸の大火で財をなした材木商です。しかし、蓄財を自分の遊びに一代で使い果たしたとして、ここ八丁堀界隈では人気がありません。ところで、昔、みかんの仲間は総称して「橘(たちばな)」といわれ、永久に変わらぬ富と生命の象徴で、「右近の橘、左近の桜」のごとくと桜と並びめでたいものとされてきました。江戸時代、舞台見物で安い入場料席(切落とし)の観客が、中売りで買ったみかんを食べその皮を、ひいきの役者にお祝いとして、投げつけるのが大流行したのだそうです。冒頭の文は当時の情景をふざけてかいたものです。お察しのとおり、みかんの皮は美女や二人連れにも飛んだそうです。漢方では「温州みかんの成熟した果皮を「陳皮(ちんぴ)」といい生薬とします。みかんの栽培は全国に広がり、そのため「陳皮」は日本で自給できる数少ない生薬のひとつになりました。

 「陳皮」には(1)健胃作用:消化不良や食欲不振などへの薬能があります。暴飲暴食での急性胃腸炎で下痢すればさっぱりする人は「平胃散(へいいさん)」。胃部につかえがあり、膨満感もあり、ゲップ、胃液の逆流、胸やけなどで疲れがある人は「茯苓飲(ぶくりょういん)」。これにのどの異物感、抑うつ気分が加わり、吐き気も強い人には、「茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)」そう、つわりの薬です。胃腸虚弱で食欲不振、疲れやすい、手足が冷えやすい人には「六君子湯(りっくんしとう)」。衰えた消化機能を補い、元気にし、体力をつけるには、「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」。また、(2)化痰作用:痰が多く胸が苦しいのをとる薬能もあり、喘息での「神秘湯(しんぴとう)」。慢性気管支炎での「清肺湯(せいはいとう)」。(3)中枢への鎮静作用としての「抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)」が認知症に効能があることは、これまでも記しました。

 さて、「茯苓飲」飲む前に都電大塚の坂上の「KK」を訪問。ちょうど「酒の日」でした、大将の消息如何にと若い衆に問うと、2週間前にあっちへゆきました。せがれの私がいうのも変ですが大往生でした。献杯は店の代々(橙)を願い「十四代」。