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病気の話…認知症について
認知症と精神症状、症状に苦慮するケースの対応(2)

  東京保健生協精神科部長・大泉生協病院精神科 
  中島 昭  

 協だより1月号、攻撃的言動のため生活が混乱した80代Aさん。Aさんは、アルツハイマー型認知症と診断され、病院で処方された抗認知症薬aを数年内服していました。この点から検討しましょう。

認知症の進行を抑制する治療薬は存在するのか 

 もの忘れ外来では、「テレビで放送していた認知症を予防する薬を処方してください」という要望が少なくありません。初診患者の80%程のご家族(或いはご本人)は「薬で認知症の進行は止められないまでも、進行をゆっくりにすることはできるのですよね、早く飲む方が効き目が良いと聞きました」と異口同音に訴えます。
しかし、医療先進国の日本にも、そして世界中にも認知症の根本治療薬は一つも存在していません。

効能・効果を記した製薬会社の添付文書 

 現在、保険適応となっている抗認知症薬は4種類。@一般名:ドネペジル塩酸塩(商品名アリセプト)Aガランタミン(レミニール)Bリバスティグミン(2種のパッチ貼付製剤)、Cメマンチン塩酸塩(メマリー)です。Aさんの薬aも@またはAです。

 この4タイプに記載されている「効能・効果」は全て同じ内容です。(資料1参照)「認知症症状の進行抑制」という情報記載と、「本剤がアルツハイマー型認知症の病態そのものの進行を抑制するという成績は得られていない」という記載との間で、多くの方が誤解をしています。

 「認知症症状の進行抑制」という文言から、「病態の進行を緩やかにし、認知症の進行を治せないまでも抑制できる」と、多くの家族の方が、薬についての過大なイメージを持つ傾向があります。しかし、全ての製薬会社は、「認知症の病態そのものの進行を抑制するという成績は得られていない」と報告しています。即ち、現在の薬の効能は、認知症の病的脳萎縮自体の進行抑制に影響を与えるものではないという事が前提です。さらに、「重要な基本的注意」として、「本剤投与で効果が認められない場合、漫然と投与しないこと」とも注意しています。

「認知症症状の進行抑制」という意味 

 それでは、「症状の進行抑制」とは、どのような意味で用いられているのでしょうか。
高齢になった認知症の方、特に、独り暮らしの方は、家族や周囲の声かけ、交流、支えがあれば、生き生きとしてきます。デイサービスに通い始めたり、ヘルパー支援が入ると、会話や行動がしっかりとし、乏しかった表情が変化に富むといったことが起こります。このように周囲の人々が生活を支えることも、まさに、「症状の進行抑制」をもたらしています。
 現在の抗認知症薬は、対症療法薬なので「認知症の病態の進行抑制」という根本治療の意味と区別するため「認知症症状の進行抑制」という表現になっているのです。
精神神経系への作用薬剤なので、その賦活作用が有効に働き、認知と行動が改善する場合もあれば、全く効果がない場合、逆に心身の状態を悪化させる場合もあります。

薬の総合評価と再評価 

 薬の作用は一般的に個人差が大きいので、各個人への効果と副作用、心身の影響に関する総合的な評価及び再評価が必要です。
 しばしば見られる副作用は、@攻撃性や易怒性の増幅、A食思不振や下痢などの症状です。危険な副作用としては、QT延長、心室頻拍、高度除脈、失神といった不整脈が0・1〜1%と報告されています。
Aさんは、攻撃的言動が大きな問題となっているので、薬aは中止し、薬剤による攻撃性への影響がないかを評価する必要があります。
 薬物治療では、各個人毎に、総合的な評価とその後の再評価をする事が大切です。

資料1【効能・効果】
アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制(効能・効果に関連する使用上の注意)
1.アルツハイマー型認知症と診断された患者にのみ使用すること。
2.本剤がアルツハイマー型認知症の病態そのものの進行を抑制するという成績は得られていない。
3.アルツハイマー型認知症以外の認知症性疾患において本剤の有効性は確認されていない。