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病気の話…精神の病について
高齢者と精神症状 不安症状(1)

  東京保健生協精神科部長・大泉生協病院精神科 
  中島 昭  

健全な不安と病的な不安 

 不安は無い方が良いだろうか。

 毎日、人は何かしらの不安を抱きながら生活を営んでいる。「不安」或いは「恐れ」は、動物が外敵との遭遇など危険な状況に陥った時に生じる「未分化な漠然とした揺れる感情」である。当然、動物である人にも本能的に備わっている。

 「不安」という情動を発現させる脳神経ネットワークは、人間が危機に対処するために進化させた重要な生体防御システムである。それゆえ、好むと好まざるとに関わらず、誰もが生まれてから死ぬまでつきあっていくべき感情なのである。

 動物にとっては自然の脅威が「恐れ」の大きな原因になるだろうが、社会的存在としての人間にとっては、自己を取り巻く様々な社会的環境の変化、社会的関係性の複雑化や社会的状況の予想外の変化に向き合う時に「不安」は生じる。

 老年期は様々な環境変化が起こる。死別を含む家族との別れ、社会的役割と人間関係の変化、心身機能の老化と身体疾患の合併、経済的基盤の変化などの外的・内的ストレス因に遭遇する。

 外来受診時には、発汗、こわばり(筋緊張)、めまい(浮遊感)、動悸、過換気発作、胃腸症状、不眠といった身体症状を伴うことが多い。本来は健全な防御機制である不安を、「病的な不安」症状とするその境界はどこにあるのか。家族はどう対応し、医学的にはどう評価するべきなのか。

ケース1 70代女性Aさん、娘Bさん

 経過:AさんはC県にて夫と二人暮らし。夫がX年1月に急死した。独り暮らしが不安で寂しいと一人娘にこぼすようになった。娘は頻繁にAさんの元に訪れ話を聞いていたが、150cm、55kg(BMI=24・4)であった体重は半年後には37kg(16・4)にまで減少した。「息が苦しい」と何回か救急要請をすることが続き、6月、娘は自分達家族の近くにAさんを転居させた。

 転居後、体重は40kgとなり食欲は改善。近医受診して抗うつ薬、胃腸薬を処方されていた。

 X+1年1月、当院精神科を受診。

 B「探し物をよくしている。『明日は何時の約束?』と繰り返し聞いてくる」「涙もろく感情が不安定で大声を突然あげる。私にずっと絡み付いて身体に触ってくる」「いないと家や職場に1日何十回と電話してくる、余りに私に依存し過ぎではないかと思う。」

 A「そういう面は確かにあるけど、娘は大げさで冷たい」「食事はとれるようになったが、未だよく眠れない。独りでいると不安になって数回電話してしまうだけ」と娘に応答。

 基礎疾患、検査:高血圧症あるが身体は健康的だった。諸検査で異常は認めない。頭部MRIでは脳萎縮・虚血性病変ともに加齢内。簡易知能検査は30/30と満点。

 娘さんは仕事や諸事情があり、すぐには同居できる状況にはない。Aさんは診察室では態度や会話は穏やか。上品な服装とお化粧をしてオシャレで礼儀正しい。

 Aさんの状態の評価は。娘さんはどう対応していけば良いのか。