ニュース&トピックス


病気の話…精神の病について
高齢者と精神症状 不安症状(2)

  東京保健生協精神科部長・大泉生協病院精神科 
  中島 昭  

正常な悲哀反応と病的な悲哀反応 

 70代のAさんは、夫が急死し独り暮らしになって以降、様々な訴えを娘にぶつけてきた。家族が他界した後、情緒不安定、不安・抑うつ的となることは多くの人に認められる心身の変化であり、通常は「正常な悲哀反応」と考える。「時」が「喪」の受容と新たな価値観の創造を自然にもたらすことが一般的な経過である。本人の性格や状況にもよるが、一般的には6か月前後の時間が目安にされる。

 「しかし、日常生活能力が大きく低下し、強い食思不振や強い睡眠障害を伴い回復しない期間が1年、2年と続く時、医療的な評価と対応が必要となる場合がある。身体疾患が除外されている場合には、「適応障害、遷延性抑うつ反応」(F43・21)、或いは「神経衰弱」(F48・0)といった精神症状である場合が多い。極端な体重低下となっている場合は、「神経性食欲不振症」(F50・0)の併存を考慮する。

健全な不安と病的な不安の混在 

 Aさんは一時期、55kgから37kgまで減少し、身体的な危険状態となった。その後、「息苦しさ」「めまい」「動悸」「原因のない不安」を頻回に訴え、全般性不安障害(F41・1)、パニック障害(F41・0)の症状を示した。娘がそばにいないと癇癪を起こし、後をついて回った。娘は「幼児のようで一日中、母に縛られ通しで疲れてしまう」と疲弊していた。

 娘さんと相談し、介護申請しデイサービス利用につなげる努力をした。本人は拒否し続けていたが、1年後ようやくデイサービスに通い始めると、本人の不適応的行動は改善していった。「ストーカーのように職場に50回興奮して電話をしてきたのが、1日2回になった。」

鑑別診断、8/5の「NHKニュース」 

 「不安・抑うつ症状」は認知症の周辺症状(BPSD精神と行動の症状)や認知症の前兆症状である場合がある。また、認知症と加齢症状との境界にある「軽度認知障害(MCI)」や高齢化による脳機能脆弱性を背景とした「器質性不安障害」(F06・4)、「器質性情緒不安定性障害」(F06・6)も鑑別する必要がある。

 他方、8/5の「NHKニュース」で興味深い調査報告が報道された。「認知症ではなかった、全国で3500人」、「診察すると認知症ではなかったケースを専門医の80%が経験している」との内容。

 認知症高齢者462万人の高齢化社会で、認知症の早期発見と対応はもちろん大切なことであるが、認知症ではない精神症状や身体症状を、「認知症」と誤診する「過剰診断」の弊害が増えている事にも注意を向けたい。 認知症高齢者462万人の高齢化社会で、認知症の早期発見と対応はもちろん大切なことであるが、認知症ではない精神症状や身体症状を、「認知症」と誤診する「過剰診断」の弊害が増えている事にも注意を向けたい。 

 そして、精神症状の変化時には、大前提として身体疾患の鑑別診断をすることが最も大切である(資料参照)。精神症状の変化では、家族は、先ずは内科、外科を初めとするかかりつけ医の先生の診療を大切にすることを心がけていただきたい。

Aさんのその後の経過 

 娘さんの家庭状況が変わり、現在は、娘家族とAさんは同居。Aさんは、「娘と孫が帰ってくるから食事が美味しい、体重も55kgになってしまった、デイサービスも楽しい」、娘は「以前の強い不安は無くなった、普通の親子喧嘩ができる。少しもの忘れはあるが日常生活では困らない」と。Aさん家族との診療は5年以上になった。

 現時点の診断。「回復傾向。認知症ではない。加齢〜MCI。器質性不安障害の疑い」

(F数字は、WHOの世界共通の診断分類です。)