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病気の話…認知症、精神症状について 
高齢者と精神症状 嫉妬妄想(3)

向精神薬の治療 

 女性Aさんのケースでは、嫉妬妄想のために強い興奮と睡眠障害が生じ、本人の生活が混乱していること、対応に努めた夫が疲弊し共倒れ状況となっていることから向精神薬による薬物治療を検討することとなった。内服に関しては、同居している保護者の夫Bさんが管理し、二人の状態を理解している長女がサポートすることに。

 Aさんは骨粗鬆症以外大きな身体疾患はなく糖尿病はない。前医処方の抗認知症薬aは興奮を増悪させている可能性が高く中止。

 非定型抗精神病薬のクエチアピン(セロクエル)15rを就寝前に定期内服とした。頓服として、不穏時(不眠が強い時、興奮が強い時、せん妄状態となる時)には、クエチアピン10rを1日に1回から3回、精神状態に応じて使用することに。

病的興奮水準の強さ

 精神と行動の症状における興奮水準は強さの幅が大きい。興奮の強さに対応した薬の用量調節を行う必要性がある。クエチアピンの一般的な処方用量は25〜750r。向精神薬の用量幅が大きいのは、様々な精神状態による病的エネルギー水準の幅が大きいことと並行している。

薬の治療上の評価点と注意点

 Aさん、夫、長女には、内服治療上の要点を以下のように説明。 向精神薬は、本来の生理機能を回復させるための対症療法薬。

効果の評価点

 (1)睡眠・生活リズムの確立、活動性・意欲が通常状態へ回復していくか。
(2)病的な興奮状態(精神運動興奮)、精神と行動上の症状が、内服以前より改善したかどうか。 Aさんの場合では、昼夜問わず数時間相手を問い詰める興奮、食器を投げ、噛みつくという攻撃性、自殺する・相手を殺すという脅迫的言動、体系的な嫉妬妄想が具体的な治療対象である。

主な副作用の評価点

 (1)薬疹や嘔気など、その薬剤と体質上合わないサインがないか。内服初期に見られる。
(2)過剰な鎮静作用により身体機能が低下していないか。用量増量時や本人の栄養状態、身体状態変化時に認められる。
(3)薬剤性パーキンソンニズム。これは、本人に潜在性のパーキンソンニズムの徴候があった場合、或いは医療薬剤の一定期間使用時に副作用として生じる場合がある。
(4)熱発。医療薬剤の副作用の場合もあれば、それとは関係なく感染症を初めとする身体疾患の合併時の徴候の場合とがある。
ある薬剤使用開始時や増量時に熱発した時は中止。
経過中に熱発した場合は、薬剤副作用が原因かは不明だが、高齢である点や身体状態全体の変化を考慮して、減量ないし中止。自分で判断できない場合は、直接、筆者に相談と説明した。

どのような時に薬の治療を行うか

 降圧薬などの身体治療薬と違い、精神科の内服治療には本人家族は慎重になることが多い。薬だけで、全ての問題が解決できるわけではない。対応と環境調節が有効な症状の場合もある。
 他方、本人と家族の生活を回復させるために薬物治療が必要な時があることを知っておくことも大切である。いずれの場合も精神症状のある方の生活全般を支えるという視点が最も大切。
 Aさんの場合のように、本格的な精神症状があり生活が混乱し家族が追いつめられている場合は、本人の心身の状態を回復させるため、家族全体の生活を守るため、家族と介護者は薬物治療について自ら向き合い、治療関係が構築されることとなる。

内服、一週間後

 B「夜は、以前よりまとまって眠るようになった、私も眠れる。頓服は最初、興奮時に1日1回で試したが、3回使用した時に、イライラした態度や目つきがやわらぐのがわかった。以前と同じ表情になる時もある。
 自分一人で薬の評価ができるか心配だったが、娘が協力してくれて助かった。身体の副作用はなかった。当面、1週間毎に受診相談したい。」
 夫と長女の理解度は高くお互いに支え合い、Aさんの心身の状態を適切に評価できていた。
 クエチアピンは症状に有効、副作用はないと評価。
 定期薬は、(朝0−昼10−夕10−寝る前15)とし、合計35rに調節となった。