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病気の話…認知症、精神症状について 
高齢者と精神症状 病的興奮(1)

  東京保健生協精神科部長・大泉生協病院精神科 
  中島 昭  

感情と理性 

 人は誰しも興奮する。それ自体はもちろん病的なことではない。ヒトが弱い動物として地球上で生き延び、環境に適応し変革していく過程で成長させた情動である。刺激を受けて神経系と運動系の機能が活発になることが興奮状態であり、怒りや不安などで気持ちがたかぶることになる。情動あるいは情緒は人の個性のおおもととなる。ただし、それらは人が乳幼児期から成長していく中で発達させる言語機能、理性によって制御されることと相まって発現されるようになる。私達は子どもの時から大人になるまで、様々な経験の中で情動と理性のバランスのとり方を獲得していく。感情をどのように制御するか、大人になっても毎日の課題である。

精神運動興奮

 物の本では、精神運動興奮とは「中枢神経と運動神経との神経路における病的興奮により激しい興奮となる状態」「意欲が亢進し激しい行動過多の状態となること、いわゆる多弁、多動、不穏な状態のこと」と書いてある。要するに、本来の感情発現と異なり、情動を制御することができなくなった病的興奮状態のこと。この病的興奮状態では、逸脱した行動により、本人と周囲の人々の生活に大きな支障が生じることとなる。

介護現場では困難な状況

 精神症状と行動症状は様々である。高齢者の精神症状では、意欲低下や活動性低下から閉じこもりがちとなり日常生活に支障をきたす場合が多い。その際のケアの工夫や対応の仕方は多く語られ周知されてきている。しかし他方、熱心に介護を続けている家族による在宅介護現場あるいはケアスタッフによる施設の 介護現場で、病的興奮からの激しい行動症状を経験すること、困難な状況が生じることも実は少なくない。その当事者となって初めて経験する家族や介護者が多い。

 父のことで相談したいと50代の息子さんAさんが来院。「先日、老人ホームから外泊した時の父の状態が余りに激しく驚いた」と話し出す。「深夜に起きだし、いきなり、母をゲンコツで殴り出した。当然、私は止めに入ったが代わりに私が殴られた。1時間続いた。父のそんな姿を見るのも殴られるのも初め て。その時は息子と思っていなかったのか。ホームのスタッフの方から、『情緒が変化して興奮することもあります』と聞いてはいたが、この時初めて、施設の方々が遠慮しながら父の問題を伝えていたのだと気が付いた。スタッフの方々の苦労を実感した」と語った。

 介護現場で困難な状況を生じさせるこの問題について、誤解せずにそして冷静に皆さんと学んでいきたい。