ニュース&トピックス

漢方の話…あしひきの 山菅(やますが)の根の ねもころに 止まず思はば

  鉄砲洲診療所 医師
  沖山 明彦

 

 10月、旧暦では新冬(しんとう)そして新暦では小春(しょうしゅん)。古語の神無月(かんなづき)も知られています。桜川公園の木々の根元やお地蔵さんの傍に、細長い葉が群生し、その中央に紫色の花穂(かほ)を忍ばせています。植物に詳しいK看護師さんから、「ヤブラン」だと教えてもらいました。「ヤブラン」は漢方の生薬ではないかと調べてみました。韓国ではその根の膨大部を「麦門冬(ばくもんどう)」と呼んでいます。あの麦門冬湯の構成生薬なのか。本当の「麦門冬」は「ジャノヒゲ(蛇のひげ)」、龍のひげの別称もある。「ヤブラン」の実が「黒柴」なのに、「ジャノヒゲ」の実は、「碧(あお)」というなど違いがあります。生薬としての「ヤブラン」の根は、漢方では「土麦冬(どばくとう)」といわれ、「麦門冬」より劣るとされます。

 「麦門冬は甘く平。…久しく服すれば身を軽くし、老ひず、飢えず」(漢方の古典:神農本草経)。特に、咳止めや去痰作用が知られています。「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」は喉の乾燥感、口も乾き、激しい咳き込み、そして量は少ないが濃厚な喀痰のあるものに使われます。「清肺湯(せいはいとう)」は、濃厚な量も多い喀痰が気管を刺激し咳き込みがみられ、喀痰が出るまで続きます。「滋陰至宝湯(じいんしほうとう)」は薄い痰が多量にでる咳で、食欲不振がみられます。「滋陰降火湯(じいんこうかとう)」は、激しい乾燥した咳、痰は濃厚、皮膚もかさつき、微熱が長引き、口の渇き、便秘などがみられます。竹?温胆湯(ちくじょうんたんとう)」は咳と喀痰それに疲労倦怠、不眠、動悸、感情不安定、健忘などの精神症状が加わっています。その他、「麦門冬」を構成生薬とする、お馴染みの漢方をあげてみます。「温経湯(うんけいとう)」、「清暑益気湯(せいしょえっきとう)」、「清心蓮子飲(せいしんれんしいん)」、「辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)」、「炙甘草湯(しゃかんぞうとう)」、「釣藤散(ちょうとうさん)」などです。

 9月3日に宮城県塩釜市の坂総合病院で、新医協「あれから5年、みちのくの民の生活と健康」の研究集会が開かれ参加しました。翌日、被災地の 閖上(ゆりあげ)を訪れました。亡くなった子ども達の名を記した石碑を「石がすり減るまで撫でてあげてください」との言葉でした。宮城には金の産出を朝廷が認定したことに因み「黄金澤神社」が建立されました。その名をとった地酒があります。冒頭の歌は万葉集にある「山菅(やますげ、やますが)」の歌の一つです。「山菅」は「ジャノヒゲ」のことで、この歌は「…妹に逢はむかも」で終わります。昔の人は、「ジャノヒゲ」の根が長く「匐 枝(ふくし)」を伸ばし別株につながっていることを知っていたのでしょうか。恋の歌かもしれませんが、今は、逝きし人々を忍び献杯。そして、「憲法的復興」を進めている人々と、「ジャノヒゲ」の根のつながりをもって乾杯。もちろん、酒は「黄金澤ひやおろし」。