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病気の話…認知症、精神症状について 
高齢者と精神症状 病的興奮(4)

  東京保健生協精神科部長・大泉生協病院精神科 
  中島 昭  

 介護、医療現場において最も大切なことは、本人の権利を守るために家族と介護・医療者の双方が十分な話し合いをしてお互いに信頼関係をつくりあげていくことだ。

 夜中の大声、他の利用者への攻撃的言動、強い介護拒否は、多くの利用者が生活しているホームでは大問題である。落ちついて生活している入居者とその家族は、症状がある方の影響で、自分の父母の生活の質が低下しないかを心配するだろう。職員と管理者は守るべき権利と権利の間で板挟みとなることが多い。介護系ホームは、すべての利用者にとって晩年を過ごす第二の「我が家」であり、第一の「在宅生活の場」となっている。介護現場で働く多くの職員は強い使命感と責任感を持ち、この困難な状況に立っている。その人らしい生活をすべての入居者が送れるように、家族の代わりにその生活を支えていこうと厳しい状況の中で毎日働いている。精神症状で行動が混乱している人にも、落ち着いている人にも様々なケアの工夫を行い働きかけている。

対話と想像 

 10月の記録。老人ホームでの父Bさんの10月の様子。歩行状態。「朝食後、食堂から帰室する時に足が出ない。小刻みに足がふるえる。職員が手引歩行を試みるも難しく車いすで対応」と歩行機能の低下が目立つようになっていた。

 感情面。「トピナ(部分発作、抗てんかん薬)内服後から感情面は安定し穏やかな表情が増えた。他の利用者様への暴言と暴力がほぼ無くなる。興奮が最も強かった時を10とすると今月は2」と感情と行動面が改善したことが知らされた。

 Bさんは、要介護4。病名、(1)アルツハイマー型認知症、(2)パーキンソン病、(3)糖尿病、(4)前立腺肥大症、(5)脂質異常症、(6)意識消失発作。2年前の当科初診時、心身の問題点は、歩行能力の著しい低下と興奮を中心とする精神症状、食思不振であった。前医では抗認知症薬2種類を初め対症療法薬が多数処方されており治療戦略は不明確であった。処方は糖尿病薬の他は、抗パーキンソン病薬、抗てんかん薬(気分安定剤)に整理した。その後、息子のAさんが「父の歩行、ボーッとした表情、食欲が短期間で見違えるように良くなり私も職員も驚いた」と表現するほどに全身状態は改善した。これは薬剤性せん妄の因子と不適切な薬剤性因子が除外された結果である。

 しかし、理由のない突発的な興奮・情動不安定は依然として残った。歩行機能はパーキンソン病の進行とON・OFFサイクルの急速性増悪のために低下していく状態であった。他方、Bさんは約8年前から頻度は少ないが意識消失発作があり、その原因は低血圧・循環器症状か低血糖・糖尿病症状が原因ではないかと推測されていた。

 高齢となると、てんかん発作が生じやすくなるという事実があるが、なかなか診断されることはない。経過を診る中で「突発的な情動不安定」と「短時間の意識消失」は臨床的てんかん発作(複雑部分発作)であると見立て、トピナを試した。少量の25r隔日処方で効果があることが確認された。加齢変化の影響が大きく慢性進行性の症状が多い認知症高齢者。その生活を支える主体は身近な家族あるいはそれを委託された現場の介護スタッフである。医療は対症療法的に関わるという関係である。精神症状が強く、難病のパーキンソン病の進行過程にあるBさんの生活を支えていく事は大変な困難を伴う。ホームの管理者は、Bさんの病状と安全管理の視点から、医療機関への入院など一時的な退去の提案をするべきか悩んだであろう。息子Aさんは父の状態を見て他の方やスタッフに負担をかけていることを悩んだであろう。

 その中で、ホームのスタッフとAさんは、時間がかかり容易に解決することのない課題について粘り強く対話と協力を続けた。ホームの方々は、Bさんの晩年を託したAさんの心情を想像した。Aさんは父の日々の生活を支え続けているスタッフの努力と他の入居者とその家族の気持ちを想像した。私は両者の不断の努力を見させていただき、学んだ臨床経験を同じような状況にある方々へ届けることが医療者の役目なのだと強く思った。