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病気の話…治療同意能力と判断力
高齢者と精神症状 判断力の問題(1)
東京保健生協精神科部長・大泉生協病院精神科
中島 昭 医師

高齢化社会が進展していく中、介護・医療現場に生じる課題の一つに、「判断力の問題」がある。
医療は医療者と患者との間の民事契約として成立している。どのような医療内容を選択するかは患者本人の自己決定が基本となる。その事は、患者に治療同意能力(医療者から十分な説明を受ければ、患者自身が医療内容について理解し合理的な意思決定を主体的に行う判断力)があることを前提としている。

他方、周知の通り加齢に比例し、認知症は増加する。認知症だけではなく、心身の症状や衰弱からも判断力が動揺し低下するということが生じやすい。介護保険の「主治医意見書」に、「日常の意思決定を行うための認知能力」と「自分の意志の伝達能力」という判断力に関する評価項目がある。
例えば、適切な栄養管理、生活環境の調節、社会的契約行為、医師から処方された薬の自己管理など、様々な意思決定が行われることで高齢者の生活は成立している。その意思決定能力は、(1)自立している場合、(2)やや困難になっている場合、(3)家族の見守りと助言が必要な場合、(4)意思決定が不可能な場合に分けられる。

代諾[だいたく](代理判断)
本人の権利を守るための家族が身近にいれば、本人の認知機能低下が進んでいる過程においても、意思決定に関する多くのことは解決できるだろう。しっかりした身近な家族は、本人がしっかりしていた時の行動と考え方を知っており、本人の意思決定が揺らぎ低下した場合でも、「本人ならこのように考え、このように意思決定するはずだ」と推測し、意思決定を補佐し、同じ価値観で考えることが可能だからだ。完全に一致することはできなくても、近づけるように努力できる。
前回までのBさん(アルツハイマー型認知症、パーキンソン病、糖尿病、意識消失発作のある要介護4の男性)の場合ではどうだったか。私(医療者)とBさんの間での薬剤治療と介護支援の内容について、息子Aさんと具体的なやりとりをして細かく決めた。これはAさんが、父Bさんの意思決定を的確に推測し、その権利擁護の立場から代理で話し合うことができたからである。

判断力の低下が問題となる医療・介護現場では、この代諾(代理判断)行為と代諾者(代理判断者)の存在が大きな意味をもってくることになる。医療は一般的には、医療者と本人との信頼関係が最も大切であるが、代理判断者との間での信頼関係も大切となってきている状況がある。もし、意見の異なる家族が複数いる場合、代理判断者が合理的でない判断をする場合、または身近なしっかりした家族がいない場合はどう考えるべきか。このことは、本人のための医療と介護を実践している現場では、大きな課題となっている。