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鬼子母神診療所から…在宅看取り
最後まで末永いお付き合い(4)「認知症」編
鬼子母神診療所
所長 高岡 和彦 

生協組合員の皆様、寒い日が続きますが体調は大丈夫ですか?インフルエンザのシーズンも峠を越え後は桜の花の開花を指折り数えるだけとなりました。
さて、今回のお話は前回の「在宅看取り」の第5弾です。今回は「ちょっと困った認知症のお爺さん」をテーマに「在宅看取り」の一例をご紹介します(実例を参考に架空の設定を行いました)。

今回の主人公は90歳の男性。昔から真面目一徹の性格で、公務員を退職後も趣味の合気道を継続し地域の子供たちを相手に厳しく指導されていました。妻は20年前に他界し独居でした。嫁いだ3人の娘も家庭を持ち、孫達も結婚・独立し3人のひ孫にも恵まれていました。孫達には「厳しいお爺ちゃん」と恐れられていました。
そんなお爺ちゃんの様子が変わったのが5年前の事でした。年相応の物忘れは以前からあったのですが、ちょっとした事で激昂し、亡くなったお婆さんが枕元に現れるようになりました。趣味の合気道も止めてしまいました。その後、症状は少しずつ悪化し「手の震え」「ふらつき歩行」「転倒」「夜間の 突然起き上がり徘徊する」など異状行動が見受けられました。

娘たちは心配となり区役所に相談に行きました。区役所から地域包括支援センターに相談するように指導され早速行く事としました。この間の経過を相談したところ医師会登録の「物忘れ相談医」を紹介され、その週の木曜日に物忘れ相談医と面談出来る事になりました。
娘3人とお爺ちゃんで面談に臨みました。医師からはレビー小体型認知症が疑わるので大きな病院で検査する事を勧められ紹介状を作成してもらいました。しかしながら、頑固なお爺ちゃんは病院に行こうとはしませんでした。「病院の医者は信用ならない」「死んでも病院には行かない」と繰り返すばかりでした。
しかし「この間の医者は信用できそうだから行っても良い」と譲歩がみられました。早速受診すると、医師は患者の尊厳を尊重し本人の希望に沿ったケアを提案しました。 また、「お爺ちゃんの嫌がる事は一切行わず、お爺ちゃんの希望通り畳の上でお婆さんが見守る仏間で最後を迎える事」を約束してくれました。

お爺ちゃんは、ヘルパーさんや看護師さんのケアは拒否されていましたので娘3人が交替でお世話する事になりました。幸い娘達は近所に住んでいたので自転車で通う事が出来ました。認知症は進行し娘達に辛く当たる事が多くなりましたが、医師から「病気が進行すると親愛なる人には暴言が多くなる」と聞いていたので涙を呑んでぐっと我慢しました。
月2回、訪問診療に来る医師には愛想良く対応していましたが、徐々に表情も乏しくなり寝たきり状態となりました。意識も混濁傾向となり拒否も少なくなったので介護申請を行い要介護5となりました。

ケアマネジャーと相談し、1日1回のヘルパーと週2回の訪問看護をお 願いしました。誤嚥も多く経口摂取も少なくなり衰弱傾向となりましたが、点滴や経管栄養は行わず自然な形で終末期ケアを行いました。苦しむことも無く少しずつ痩せ衰えていくお爺ちゃんの姿を見つめながら、娘達はガーゼに水を浸して口を拭ってあげていました。
日曜日の午後、お爺ちゃんは、娘3人と孫・ひ孫・訪問看護師さん・ヘルパーさん・ケアマネさんに見守られ旅立ちました。医師はしずかに頭を垂れて娘3人と交互に握手をして「良かったですね。お疲れ様でした」と労らいました。安らかに眠っているお爺ちゃんの顔は、何だか微笑んでいるようでした。仏壇の遺影は満面の笑顔でした。

「終末期を在宅で迎える患者とその家族」に対して患者・家族の意志を尊重し、多くのスタッフがそれぞれの専門的立場から濃厚に関わる事で安心して「在宅でのお迎え」が出来ます。一人で悩まないで皆で問題点を共有して対応する事が「チーム医療」です。安心してください。