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病気の話…治療同意能力と判断力
高齢者と精神症状 判断力の問題(1)
東京保健生協精神科部長・大泉生協病院精神科
中島 昭 医師

「食べない」という問題
高齢者の「食べない」という心身の状態変化、この事は医療・介護・福祉現場では大きな問題をはらんでいる。日本老年医学会の「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン―人工的水分・栄養補給の導入を中心として―」は次のように率直に問いかけている。「高齢者ケアの現場において、関係者たちを悩ませる典型的な問題の一つに、何らかの理由で摂食できなくなった時に、人工的水分・栄養補給法(以下AHN)を導入するかどうかというものがある。加齢に伴って漸進的に衰えてきたとみれば、人工的なことはしない方がいいと思われるかもしれない。だが人工的栄養補給を行なえばなおしばらくの生が見込まれるのであれば、それを導入すべきだと思われるかもしれない。こうした事情が、例えば、認知症末期の患者へのAHNについて、多くの医療者が『導入しないことに倫理的な問題を感じ』ているが、また『導入することに倫理的な問題を感じ』てもいるというような困惑を、臨床現場にもたらしている。」と述べている。

AHN(artificial hydration and nutrition:人工的水分・栄養補給法)とは、通常の経口摂取による食事とは別の方法で栄養を補給することで、経腸栄養法と非経腸栄養法とがある。前者は、主に胃ろうと経鼻経管により総合栄養剤を胃に入れることで栄養を摂る。後者は、主に中心静脈栄養法、末梢静脈栄養法、持続皮下注射のことで、点滴により静脈から栄養を摂る方法のことである。

日本老年医学会は、平成22年に同医師会員にアンケート調査をしている。それによると1,58名の約9割が、「認知症末期患者へのAHN導入の可否の意思決定に関して困難を感じた」と回答している。その困難感の内容は「AHNの差し控えには倫理的に問題がある」と感じている医師は51%、「AHNを行うことについて倫理的な問題がある」と感じている医師が33%であった。
また、「経口摂取からAHNへ移行する判断基準が難しい」と答えた医師が45%であった。

判断力が低下した方の医療に関する意思決定
高齢者への医療、介護ケア全般で大切なことは、医療・介護・福祉の現場スタッフと本人・家族との間のコミュニケーションと信頼関係である。判断力が低下し自分で意思決定ができない方の場合も同じである。しかし、判断力がなく、責任を持つ家族(代理判断者)もいない場合、現場関係者に難しい課題が生じているのも事実である。医療に関する意思決定プロセスが適切であるかどうかは、個別ケースに即して当事者どうしが十分に検討し再評価しているかに拠っている。関係者の話し合いが基本である