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漢方の話…鳩麦や娘ざかりを 煎じ薬(一枝)
鉄砲洲診療所
沖山 明彦 医師

秋たけなわの季節を高秋(こうしゅう)九月と呼び、良寛(りょうかん)さんの漢詩に「……高秋(こうしゅう)九月天気清し……酒を山に対して笑い……」があります。おっと漢方は、「よく苡仁:ヨクイニン」です。「ヨクイニン」は、鳩麦の種子の皮を除いたものです。鳩麦は、日本には7、8世紀中国から伝来し、江戸時代享保年間(1716〜36年)に広く栽培されるようになりました。一反歩から四石もとれるので「四石麦」などと、呼ばれていましたが、「鳩が好んで食べる麦」の意で、明治以降「鳩麦」という呼び名になりました。
鳩麦は食用の他、薬用に用いられてきました。「じゅずだま」は別物で、その果実は固く、生薬名は「川穀(せんこく)」です。鳩麦の成分は玄米に比べ蛋白質が2倍、油脂類は1.8倍、ビタミンB1は玄米に劣るが、アミノ酸は穀物では最高の含有です。鳩麦粥や茶は腎臓病や脚気(かっけ)で体がむくみ、尿の出が悪い時に「身を軽くし、気を益す」民間療法です。「ヨクイニン」は、消炎、利尿、鎮痛、排膿、免疫作用、抗疣贅(ゆうぜい)作用、抗腫瘍作用などの効果があります。

「ヨクイニン」は単独で「ヨクイニン・エキス」として保険で処方されます。保険病名では、「青年性扁平疣贅(せいねんせいへんぺいゆうぜい)」「尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)」「進行性指掌角化症(しんこうせいししょうかくかしょう)」などです。「疣贅:いぼ」が取れる前に赤くなり、痒みが出ることが知られています。便秘の人、妊婦には使用注意です。
「ヨクイニン」は他の生薬との組み合わせ処方があります。「麻杏よく甘湯(まきょうよくかんとう)」は、冷えが原因で熱を持ち、関節痛や筋肉痛が慢性化し、症状は激しくなく夕方痛みが増す。皮膚がかさかさで頭にふけが多いものへの処方です。それよりやや重症の関節リウマチなどで、四肢の関節や筋肉が腫れて熱をもち痛む場合は、「よく苡仁湯(よくいにんとう)」。冷えのぼせ、月経不順、血の道症があり、にきび、しみ、いぼなどへは「桂枝茯苓丸加よく苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)」。

中秋名月には芋を月に供える「芋名月(いもめいげつ)」の習わしもあります。この芋はサトイモです。古くからのもう一つがヤマノイモです。鬼平犯科帳で「芋酒」屋の元盗人の親父と鬼平の出会いがありました。「酒文献類聚(さけぶんけんるいじゅう)」によると、芋酒は「山の芋いかにも白きをこまかにおろし冷酒にてよくときかきまはしてよし」。そして「芋酒をのめばいもせの中よくてぬかごをうむというはまことか」と沢庵(たくあん)和尚が続けます。今夜の月は千駄木、酒は会津の「夢心」。