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HPH…健康破壊因子「戦争」
東京保健生協理事長・根津診療所所長
根岸 京田

18世紀以前、「病気を治す」と言う意味では医学はまだまだ無力でした。解剖学や生理学の知識は蓄積されつつありましたが、診断技術、診断機器、治療法、薬物などは経験的に伝承されたものであって科学的な検証はほとんどされていませんでした。当時、人々の健康を脅かす最大の疾病は感染症でした。17世紀に流行したペストにより、ヨーロッパの人口の実に3分の1が死亡したと言われています。細菌学の知識も感染経路の知識もないまま多くの人が命を落としましたが、そんな中でもネズミの駆除をした村での死亡率が低かったとか、強い酒で部屋を拭うと良かったとか、断片的な感染予防の知識が知られていました。
時代が下がり、ロンドンでコレラが流行したことがあります。よく調べるとある井戸の周囲には多くの死者が出たが、別の井戸の周囲には死者が少ないことがわかりました。病原体はわかりませんでしたが、井戸の水を介して病気が広がることが気づかれたのです。つまり、ネズミの駆除や井戸の汚染対策などの環境衛生対策、すなわち公衆衛生的な対応が、疾病予防に重要だと言うことが知られるようになりました。
19世紀以降の自然科学の目覚ましい発展により「治療学」としての医学は大きく進歩しましたが、20世紀の2度の世界大戦は、戦争が最悪の健康破壊因子であることを強く印象付けました。
第二次大戦後、国際連合は、戦争で荒廃した世界を前に人々の健康を維持するには、社会政治的な介入の必要性を痛感し、世界保健機関憲章に「社会的な健康」を書き込んだのです。