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鬼子母神診療所から…在宅看取り
「透析治療を断り天寿を全うしたご婦人」編
鬼子母神診療所
所長 高岡 和彦 

生協組合員の皆様、お元気ですか?ゴールデンウイークの予定は決まりましたか?スギ花粉症で苦しんでいる方はもうしばらくの我慢です。ヒノキの方は、頑張って下さい。

さて、今回の主人公はお元気な88歳のご婦人です。孫も3人おり大家族で暮らしておられます。クリニックには都電で通院されています。
昨年から腎硬化症による腎不全で透析治療の話が出ました。3人の息子は、透析治療を行う・行わないでいつも揉めていました。最後は「お袋が決めれば良い」と収拾のつかない状況が数か月続きました。当の本人は「もう歳だから静かに最後を迎えたい」と考えていましたが、息子たちの口論を聞いているとなかなか本心を言えませんでした。
桜の花が散り始めた頃から通院が困難となり訪問診療に移行しました。体の浮むくみや息切れ、吐き気など腎不全の増悪による尿毒症の症状が見られるようになりました。主治医から人工透析を始め終末期の治療に関して家族と本人へ相談がありました。息子たちの意見は纏まらずに時間だけが経過しました。
ある日、主治医から息子たちに「お母様は積極的な延命処置を希望されず緩和ケアを希望されています。ご家族のお考えもあると思いますが、今一度、ご本人の気持ちを考えて意見を纏めてもらえないだろうか」と提案がありました。息子達夫婦に訪問看護師、ケアマネなど合同で話し合いを行いました。当然、ご本人も交えてのお話合いです。ご本人からは、「もう十分生きた。息子も立派に独立し、孫の晴れ姿も目に焼き付けた。もう思い残すことは何も無い。幸せだった。あの世で爺さんが待っているから…」と訥々(とつとつ)と話されました。
訪問看護師からは衰え行く体調の変化に対しての心構えとアドバイスがありました。ケアマネからは新しいベッドの搬入とヘルパーの介入や在宅リハビリ等の介護プランが定時されました。2週間が経過し、寝たきりとなり口からの食事が食べられなくなりました。週末の土曜日の夕方、苦しむことも無く皆に看取られ安らかに旅立たれました。息子達は温もりの残った母親の手をしっかりと握りしめながら「俺たちを産んでくれて有難う」、「育ててくれて有難う」、「愛してくれて有難う」と口ぐちに話しかけていました。

終末期を在宅で迎えることは大変な事も多いと思います。ご家族の思いを斟酌(しんしゃく)し本人の意思を尊重する事が大切です。結論を出すまでの過程を大切にしながら多職種がそれぞれの専門的な立場でサポートする事がチーム医療です。一人で抱え込まないで皆で相談しながら関わる事が包括ケアの概念だと思います。住み慣れた場所で最後を迎える事も人生において大切な事だと思います。