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病気の話…医療と倫理について
倫理の問題(1)
東京保健生協精神科部長・大泉生協病院精神科
中島 昭 医師

第35回

今回からは、医療、看護、介護の中で生じる倫理問題について皆さんと考えていければと思います。医療倫理が扱うテーマは大変広いので、ここでは、それぞれの現場で日常的に生じる倫理的疑問について考えていきます。それは、医療者とともに患者さんとその家族の疑問であり課題だと考えられます。
例えば、「私が重い病にたおれた時には、そのまま自然に眠らせてください。延命治療などをして家族や周囲の人に余計な心配はかけたくありません」という手紙を書いていた人がいて、その数年後、緊急入院した時のことを思い描いてみてください。医療者や家族はどう考えどう対応すべきでしょうか。
その出来事が1500年代の戦国時代の私達の祖先の話ならば、本人とその周囲の人にも疑問は生じなかったでしょう。ことの成り行きを祈祷や自然に任せるしか方策がないからです。
織田信長は1560年桶狭間の戦いの時に、「人間五十年、下天のうちを比ぶれば夢幻のごとくなり」と謡い出陣したと伝えられています。未だ遠くない1950年、昭和25年頃の平均寿命はおよそ60才です。しかし、現代は周知の通り日本人の平均寿命は80代です。
この半世紀の中で、周産期医療を初め多数の疾患に関する医療が一定の進歩をしました。それを支える栄養学、リハビリテーション学や保健分野の成長があります。科学に基づいたこれらの成果をもってしても現代医療が万能ということはありません。
病状や病態によって、完全に回復する場合もあれば、部分回復の場合もあり、また効果がない場合もあります。医療者は医療行為にあたっては病状に応じた最善の方法は何か、おおよそ予想されるその効果とマイナス面を患者さんや家族に説明することができます。しかし、実際に医療行為を行っていく中でしかわからないことが多数あります。その都度、医療者と患者さん、家族とで最善の方向性は何かを話し合っていくことが最も大切なことであり基本となります。

医療介護現場で問題となること
私たちの医療看護介護現場で問題となっているキーワードをいくつかあげてみましょう。患者の意思決定、家族の意見、リビングウィル※1、自己決定能力、医療に関する判断力、患者の意志の推定、治療拒否または治療差し控え、最善の利益、医学的無益性、公平性、インフォームドコンセント※2、守秘義務、医療情報の開示、QOL※3、SOL※4、延命、終末期など多数あります。
一つ一つのケースの文脈の中でこれらの言葉の意味をお互いに理解しあえていければと思います。

用語解説
※1:リビングウィル…生前の意思
※2:インフォームドコンセント…説明と同意
※3:QOL…生活の質
※4:SOL…生命の尊厳