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歯の話…認知症対応力
氷川下セツルメント歯科
安 梨淑

ある日息子さんと連れ立って認知症の80代の女性が来院した。義歯を作りたいという。息子さんから「この頃補聴器も自分で入れられなくなって、自分で楽に取り外せてゆるくない義歯って作れるんでしょうか?」口の中を拝見すると歯が飛び飛びに残っていてクラスプ(入れ歯を歯に固定する装置)が3個は必要な状況。特養入所中。介助なしで義歯を出し入れできればということらしい。
通常ならクラスプに指をかけてひとつづつ外すがそれは無理そう。幸い型取りはできたので、模型を見ながら技工士と悩んでみることにした。(1)彼女は果たしてどこを持って義歯を外そうとするだろうか?(2)その方向に外せるようにクラスプを配置した場合ガタつかず使えるか?等々。
完成した義歯を入れ、外してみてもらいました。(お〜私達の予想通り入れ歯の前の歯を引っ張って外そうとしました)悩んだ甲斐があって使えているそうだ。

しかしいつもうまくいくわけはない。往診で伺ったお家で、夫「俺の入れ歯は大丈夫だ、これがあるから」義歯安定剤の大きなチューブを奥から持ってきて見せてくれた。妻「ゆるいじゃない、安定剤も自分で塗れないくせに。私が入院でもしたらどうするの」実際ご主人の義歯は少しゆるい。自分で何でも出来た、入れ歯も大丈夫だった過去の話をしているのだ。認知症の進んだご主人は治療を断固拒否。トボトボ帰ってきた。

何年か前なら話も通じて義歯を新製できたかもしれないと思った。75歳とか80歳で「義歯このままで大丈夫か健診」を受けて早めに義歯を新製しておくというのはどうなの?帰り道衛生士相手に力説したが、いい考えかも。
高齢者が増えると当然認知症も増える。認知症に対応するため私たちは、その人に最適な治療とケアを行える実力を備え、前もってやっておくべき事を知り実行する先見性を持つことが求められているのだと思う。