ニュース&トピックス

病気の話…医療と倫理について
医療や介護の現場の倫理(5)
東京保健生協精神科部長・大泉生協病院精神科
中島 昭 医師

第39回

知的障害の方と家族
私の外来には認知症の方とその家族も来院していますが、発達障害の方とその家族も多く受診しています。前者の場合は親と子どもという関係が多いですが、後者の場合は、子どもと親という関係になります(兄弟姉妹、3親等までの血縁の方々もいます)。

知的障害と自閉傾向のある50代の娘さんと70代の母二人がこれまで診てもらっていた先生が高齢となり閉院となったのでと当院に来院されたのが10年前。娘さんは短い会話ができます。作業所での新しい出会いや母と離れて暮らすことになったグループホームなどでの人間関係に悩むことが多くなり落ち込む時期があり、作業所の近くまで行きそこに1時間立ったままで動かないと母が相談をしたことがありました。とても愛嬌のある娘さんなのですが、その時期は診察室でもうつむいてあまり話そうとせずに動作もゆっくりでした。「〇子、もっとハキハキしなさい、それじゃわからないでしょ」かくしゃくとしているお母さんがいつにも増して〇子さんを励まします。お母さんは乳幼児期、小学部、中学部、高等部そして20代30代40代50代と娘に変わらぬ愛情をかけ、ハンディキャップのところは自分が補い支えるのだという強い気持ちを持ち続け実行しています。

知的障害は、通常予想されるよりも成長の時間がゆっくりであるということが特徴です。少しずつ成長しているので、この時の娘さんは以前よりも自分と周りとの関係が理解できて自分に自信が持てないということを表現したかったのだと思います。思春期に誰もが直面する人間関係を少しずつ実感するようになり悩んでいたのでしょう。娘、子どもの変化に私が守らなくてはという母の強い気持ちが伝わります。この時のお母さんも若々しかった。そして、娘さん60代、母80代後半。変化を乗り切り、今も若々しく気丈に娘にそそぐまなざし、表情に、親が子どもを守る気持ちは深く強いのだと頭が下がります。

治療拒否あるいは差し控え
息子さん30代、父70代という二人暮らしの親子がいます。息子さんはやはり知的障害と自閉傾向です、言葉は話せません。表情や行動、感情でコミュニケーションをします。身体はとても健康でこれまで内科も精神科もどこにも受診したことはありません。この二人からもとても大きな影響を私は受けました。